福地崇生(朝日大学 教授)
1997年日本地域学会第34回年次大会は、9月27日から28日まで
敬愛大学経済学部(千葉市)で約200名の参加で開催された。報告は全体で40点あり、
その他「情報インフラの発表と地域経済へのインパクト」を主題とするシンポジウムが開催された。
その後29日には約30名が参加して同校で環太平洋地域学会(PRSCO)事務局主催の
第9回国際シンポジウムが開催された。
(1)日本地域学会第34回年次大会
セッションは合計12設けられ、1日半で4セッション並行で行われ、残りの半日が
総会とシンポジウムにあてられた。初日午前は環境 I、情報、経営、アジア経済の4セッション、
午後はシンポジウム、2日目午前は環境 II、成長、交通・流通、国際産業連関の4セッション、
午後は都市経済、地方財政と地方分権、国際経済開発、多地域産業連関の4セッションが行われた。
交通・流通セッション(議長 河上省吾・蔵下勝行)では、半沢文雄・氷鉋揚四郎
「ロードプライシングによる自動車交通量抑制策の研究」、
閔丙権・氷鉋揚四郎「交通渋滞緩和のための交通需要管理技法に関する研究
―韓国の大田広域市を事例として」、竹内章「公共物流拠点の形成に関する研究」、
金広文「2部門交通産業のインフラ財源システムに関する機能評価分析」の4報告がなされた。
都市経済セッション(議長 藤田昌久・大田浩)では、
阿部宏史「就業機会の地域間格差と地域間人口移動」、高塚創・樋口洋一郎
「地代流列の空間的依存性を考慮した地価モデル:推定法と実証分析への適用」、
若生徹「流通機構におけるチェーンストアと単独店の空間的競争」の3報告が行われた。
経営セッション(議長 関根正行・瀬尾芙巳子)では、春名巧・佐藤義仁
「望ましい都市・地域開発プロジェクトの計画と円滑な実施のための地域マネジメントセンターに
関する研究」、春名巧・竹林幹雄「地域総合開発におけるマルチプロジェクトプランニング実施
に関する実証的研究―米原におけるケーススタディ」、
DU万和・福岡克也「中国における多国籍企業経営管理構造に関する実証的分析」の3報告があった。
地方財政と地方分権セッション(議長 伊藤善市・熊谷彰矩)では、
枝川明敬「全国的に見た文化活動の展開に関する研究」、
藤岡明房「地方政府の長期計画と内生的成長理論」、山本伸幸・小倉波子
「農山村SAMの展開―環境セクター・公共セクターへの拡張の可能性―」、
兼子良夫「地方交付税の財政調整機能の変容と現代的意義」の4報告がなされた。
成長セッション(議長 鈴木多加史・三友仁志)では、
浅田甚作「地域経済の成長会計分析」、
阿部雅明「再生可能領域と南北世界の経済発展」、仙波憲一・宮坂雅幸
「資本財輸入国の経済成長と貿易収支」、松本昭夫「非線型蜘蛛の巣経済における望ましい不均衡」
の4報告が行われた。
情報セッション(議長 酒井泰弘・伊藤洋三)では、
渋澤博幸「情報ネットワーク都市:サイバー空間と物理的空間」、
山口誠「情報を考慮した地域計量分析―愛知県モデルの事例―」、
実積冬志也・大田耕史郎・大石明夫「アンケート調査に基づく世帯通話支出の分析」、
佐々木啓介「商社の棄権回避と一手契約について―不確実性と総合商社の役割―」の
4報告があった。
近年ますます社会的重要性を増している環境問題には2つのセッションがあてられた。
環境 Iセッション(議長 山村悦夫・桐谷維)では、
シン・氷鉋揚四郎「韓国における最適交通投資計画評価及び環境影響分析」、
佐藤博樹・矢部光保・山村悦夫「家庭系一般廃棄物自家処理サービスの経済評価―2段階
DCCVMの北海道北見市への適用」、清水丞・萩原清子・萩原良巳
「都市域におけるレクリエーション利用行動に関する一考察―水辺環境を例として」の
3報告がなされた。
環境 IIセッション(議長 福岡克也・加賀屋誠一)では、
水野谷剛・氷鉋揚四郎「日本における大気汚染物質排出の最適制御に関する研究」、野嵜弘道・氷鉋揚四郎
「自然環境の総合評価―開発と自然環境保全の調整」、榊原依子・萩原清子
「住民意識からみた環境共生住宅の評価―多摩ニュータウンを対象として」、
岡本勝男・川島博之・福原道一・袴田共之「地球環境変化と農業生産」の4報告があった。
産業連関分析は地域科学でも重要な方法論の一つとして定着している。本年は、
国際産業連関セッション(議長 宍戸駿太郎・秋田隆祐)で、
ソニス・ヒューイングス 「産業連関パスアナリシス」、中山恵子「地域産業連関モデルによるリサイクリング・廃棄物処理活動
について」、辻久子・川村和美・田中仁・信国真載・秋田隆祐「環日本海港湾間を結ぶ
国際物流の将来像の検討」が報告された。パスアナリシスは逆行列の波及過程を構造的
に分解しようという継続的な試みである。中山の研究は環境保持・廃棄物処理の
分析の基礎づけである。辻他の物流研究は将来の計量研究のベースとなる
実態研究である。これらの幅広い仕事で産業連関分析も拡大的に深化しつつあると感じた。
さらに多地域産業連関のセッション(議長 井原健雄・河野博忠)では、
福地崇生「多地域産業連関モデルにおける集計問題」、仁平耕一「インドネシアにおける地域産業連関分析」、
宍戸駿太郎・モブシューク・舟木貴志「北東アジアと環日本海経済圏:特に新潟県の役割に関する計量モデル・シミュレーション
――プロトタイプモデルによる分析」、井原健雄・正岡利朗・藤井順子
「幹線道路網の整備と地域間交流の実証分析」の4報告がなされた。
アジア経済セッション(議長 金裕赫 ・福地崇生)では、
木南莉莉・木南章「アジアにおける食品産業の貿易構造と分業関係」、トン・氷鉋揚四郎、「図們江経済開発地域揮春経済特別区
における経済開発と環境保全」の2報告がなされた。国際経済開発セッション(議長、信国真載・平木俊一)では、
信国真載・川村和美「図們地域海港による北東中国の最適輸送計画:ルシャテリエ原理による国際協力の評価」、
バンデルベルグ・ナイカンプ「解放経済システムでの持続的内生成長モデル」の2報告が行われた。
シンポジウム:「情報インフラの発展と地域経済へのインパクト」
(議長 福地崇生・木村吉男)。報告者 田中秀俊(日本道路公団)、「道路の情報化と交通の変化」、上条昇(郵政研究所)、
「情報通信インフラ整備と経済的インパクト」、藤岡明房「インフラ整備で変わる地域経済」。
パネラー 井原健雄、川上省吾、三友仁志、伊東洋三。21世紀に向けて、情報化は日本経済を活性化して国際競争力を
保持する鍵であるが、同時に各地域経済が魅力を増して有権者の足による投票を勝ち抜いて繁栄する鍵でもある。
田中報告は道路管理システムの情報化、上条報告は情報通信整備が利用者の便益をいかに向上させるかに触れた。
藤岡報告は情報インフラ整備が生産者・消費者全体としての地域経済の活性化にいかに貢献するかを論じ、東京首都圏の一部として
躍進しつつある千葉市のイメージを彷彿とさせた。「情報」は未来社会のキーワードだが、中身は何か。
交通・通信までは定式化が可能だが、テレビマスコミ・計算情報サービス・管理企画等どんどん広がる。
第三次産業の比率が大きすぎるから、将来は目で見える第三次産業と見え難い第四次産業に分けろという意見もある。情報量の増加は
人間の厚生を単線的に拡大するだけでなく、情報リッチな層と情報貧困層に両極分解を起こさないだろうか。
今の経済学では個人の厚生水準は複合消費財と余暇の関数だが、将来はさらに情報量が入らないだろうか。
情報についての議論はまだまだ始まったばかりで今後も継続的に議論するテーマが多々あると思う。
学会総会席上で、本年度の功績賞が長年の学会への貢献の労をねぎらって
河野博忠教授(元日本地域学会長、現理事、環太平洋学会事務局長)に贈られた。論文賞が信国真載教授、
新人への奨励賞が奥田隆明氏に贈られた。
また席上、ギブソン元国際地域学会長から国際地域学会の活動状況についての説明があった。
年次大会は1報告ごとに2討論者というシステムが定着した。今年は12月にニュージーランドで
環太平洋地域学会
がオーストラリア・ニュージーランド支部年次大会を兼ねて開催される。
論文250、参加者300という規模で、日本からも多くの会員が参加する。
このため9月の年次大会の報告希望は少ないのではと懸念されたが、40本の報告があった。
日本地域学会は世界地域学会の日本支部を兼ねているために、上位の環太平洋学会(隔年)
や世界大会(4年ごと)へ出席する必要もある訳で、学会員は研究と国際交流に忙しい。
しかし学問上の交流を通じて知己が増えるのは一石二鳥の楽しみでもある。
(2)環太平洋地域学会(PRSCO)事務局主催第9回国際シンポジウム
大会後29日には約30名が参加して同校で環太平洋地域学会(PRSCO)
事務局主催の第9回国際シンポジウムが開催された。これには国際地域学会を代表する
3教授が海外から常に参加し、報告・討議ともすべて英語で行われ、
親睦をかねた国際交流を行っている。今回はPRSCOの事務局長の河野教授の開会の挨拶の
後に合計4セッションがもたれた。
第一セッション(議長 木村吉男)。報告者 ナイカンプ教授(前国際地域学会会長)
「維持可能な輸送システム・地域開発の多次元的シナリオモデル」。競争重視か、均等重視か、
環境重視かと、全欧州益か国益重視かの掛け算で、シナリオが6個でき、これを種々の観点から点つけをし
世論の集約化に資する試案を述べた。筆者は成長と調和のとれた地域開発の2目的の達成に交通体系
整備は日本の経験では大変効果的であったと共感したが欧州統合もいよいよ困難な実行段階に入ったという
感を深くした。
第二セッション(議長 井原健雄)。報告者 多和田真「労働者経営企業(labor-managed firm)企業の利潤率規制」。
このタイプの企業は、日本的または連帯型に近く米国型と違い注目されている。
誰が株式保有者か、地域的特徴はなど質問が出た。筆者は企業城下町モデルのように感じた。
第三セッション(議長 ギブソン)。報告者 ヒュウイングス(国際地域学会事務局長)
「米国中西部における規模の経済、貿易利益、地域交絡構造」は来年の研究課題である
米国中西部の産業連関表による波及効果の分析結果を述べた。筆者も多地域連関表
における中継港の扱いについて討議した。
第四セッション(議長 福地崇生)。報告者 氷鉋揚四郎「交通混雑を持つ情報オリエンテッド
閉鎖都市での市場均衡とパレート最適」。氷鉋氏の都市モデルはアロンゾ・チューネン型
としては最大の大作で論文の式も301本あったので、コメンターが式は全部必要かと
聞いて同氏が苦笑していたのが面白かった。
最後に福地・ギブソン両者の閉会の辞で締めくくった。全セッションともに質問・討議が続出して
時間不足が感じられたが、それだけ日本人会員もこういう国際集会に慣れてきた訳だが、
引き続き良い修練の場と思われ、積極的な参加が望まれる。