最適契約として捉えたインフラプロジェクトの事前評価と事後評価

福本潤也,東京大学大学院新領域創成科学研究科

 1990年代,公共事業の非効率性が社会から厳しく糾弾された結果,費用便益分析を
はじめとする公共事業評価制度の導入が社会的関心を集めた.現在では,国が行うす
べての新規公共事業において費用対効果分析の実施が義務付けられている.
 しかし,現在の事業評価に対して,多くの批判や疑念が寄せられているのも事実で
ある.そのうちの一つに,「現在の事業評価は体裁を整えることのみを目的に行われ
ているものも少なくない」との指摘がある.この場合,分析者には適正な事業評価を
行うインセンティブがないため,優れた研究成果の活用や十分な調査の実施が妨げら
れる危険性が高い.この問題への対処法の一つは,分析者に対して適正な事業評価を
実施する誘引を与える制度を構築することである.本論文では,このアイディアを最
適契約問題として定式化・分析し,現実の事前評価および事後評価の制度設計指針に
ついて考察することを目的とする.
 分析結果から,1)分析者への報酬体系として,情報価値に基づく報酬体系と対数
スコアリング・ルールに基づく報酬体系の2つが考えられ,2)分析者がリスク回避
的な場合には対数スコアリング・ルールに基づく報酬体系の方が優れていることがわ
かった.また,1)の分析結果は,事後評価の評価方法として,事後的な社会的純便
益の評価と事前評価における予測精度の評価という2種類の評価方法が存在すること
を示している.