地球環境問題と交渉 -ゲーム理論的アプローチ

臼井功 (横浜国立大学)

 地球温暖化,酸性雨,オゾン層の破壊,土地の砂漠化,森林破壊,海洋汚染,生物多様性の喪失,水産資源の減少などの地球規模での環境的脅威,すなわち地球環境問題は,その影響が発生国に限定されず,国境を越えた汚染物の移動や生産立地の変更等によって世界中に拡散していく.このような地球規模環境問題は,国内の環境問題が法律や慣習,あるいは政府による指導や強制などの手段によってコントロールできるのに対し,国際的には,国家を超越したそのような手段は存在しないので,国際間の交渉に基づく自律的な合意によって解決されなければならない.
 しかし,国際間の自律的な合意の形成は,?環境問題において合意することは,交渉の過程に関与するすべての国にとって利益があるわけではないこと,および?環境便益は排除不能であるので,大抵の国は費用を支払うことなく環境上の便益を達成できる可能性があること,という二つの理由によって困難である.そこでこの困難を克服して,国際間の交渉によって合意を形成し,その合意を実行させるための実用的な手段が必要である.本論文では,そのような実用的な手段の一つとして注目されるようになっているイシュー・リンケージについてゲーム理論的によって考察する.交渉におけるイシュー・リンケージとは,環境問題の交渉に即して言えば,環境問題を他の国際的問題(例えば,貿易や技術協力など)と結合して同時に交渉を行うことである.このイシュー・リンケージによって,ある国は環境問題で利益を得る一方,他の国は貿易問題で利益を得るということが可能となり,両方の問題で互いに協力するという合意が成立しやすくなるのである.