伊藤 あずさ(名古屋大学)
国際貿易が自然環境や厚生水準に与える影響を考慮した研究が数多く行われている。なかでもCopeland and Taylor(1999)は,工業部門から発生する汚染によりその国の環境が悪化し農業部門の生産性が下がると仮定して、貿易パターンや経済厚生に関する分析を行なった。一方、Unteroberdoerster(2001)、Benarroch and Thill(2001)、Suga(2002)はこのモデルを越境汚染に拡張して、汚染の発生割合や労働賦存量などの両国間の差を貿易の源泉とし、国際貿易のパターンや貿易利益についての議論を展開した。
本論ではグローバルな環境資源を考え、それが各国の排出する汚染によって悪化する場合を想定する。そして貿易の源泉を自然環境が生産に与える影響の程度について両国間で差があることにもとめる。その下で、両国の汚染発生率の違いが貿易のパターンや自然環境、各国の経済厚生に与える影響を検討する。
本論の分析では主として次の結果が示される。汚染発生率の違いには関係なく自然環境が生産に与える外部効果の大きい国がその財に比較優位を持ち,その財を輸出し,汚染を発生させる財を輸入する。自然環境が生産に与える効果が大きい国で汚染発生率が低い場合には,貿易によって両国の厚生水準は国内均衡の水準と比べて共に下がる可能性がある。一方,自然環境が生産に与える効果が大きい国で汚染発生率が高い場合は,貿易によって両国の厚生水準が上がる可能性がある。本論の分析全般からは次のことがいえる。貿易により汚染発生財の生産が汚染発生率の非常に低い国にシフトした場合のみ,両国の厚生水準は上がるが,それ以外の場合では貿易により両国の厚生水準は下がる可能性がある。