中国の経済開発と地域格差
−長江デルタ都市圏の形成を中心として
本論文では、地域格差格差を地域経済圏形成の視点から検討する。その理由は、地域
開発目標における成長と格差に対する次のような認識に基づいている。�地域経済全体
のレベルアップが望ましく、且つ�長期的に地域内部単位間の格差の縮小が望ましい。
そのために、中国のような計画経済体制の経験国にとって、まず分断化した地域市場か
ら脱出し、地域経済圏を形成させるのは急務であると考える。
90年代に、上海浦東の開発を起爆剤に、「T字型開発戦略」の結合点に位置する長江デルタの
結節性は強まり、一つの経済圏と見ることができるようになっている。その要因は、「国際金融・
貿易・経済センター」を目指す上海経済の復活(成長中心地の創出)と背後にある「江浙モデル」
地域のバックアップ(イノベーション伝達システムの創出)にあると考えられる。本論文は、定
量的なデータ分析を行い、上海を含む14都市の成長及び格差の要因が、�産業構造、�非国有
セクターの成長、�財政構造、�外資直接投資にあること、そしてイノベーションの伝達システ
ムは、主に�金融保険機関や高等教育機関などの高度都市機能の立地、�郵政事業や都市道路並
びに運送などの情報網、交通網の建設により樹立していることを明らかにする。
上海とデルタ諸都市間の絶対極差などは拡大に転じたものの――本論文の考察から、上海都
市機能の高度化(主に金融保険業の安定成長)と、上海と周辺都市間のある程度の経済格差の存
在は、長江デルタ経済圏の形成を支える要件とも言える。
分析を通じて、上海と江、浙両省間の1人当りGDP並びにその成長率の全国での順位はとも
に大きく飛躍し、更に上海と江、浙両省、及び周辺13都市間の格差はある程度縮小してきたこ
とが明らかになった。このことから、長江デルタ(特に狭義なデルタ)地域は、一つの地域経済
圏として連動しているものと考察できる。但し、1990~98年と言う分析期間は十分な長さとは言
えず、今後引続き観測することが必要と考える。
: With a Case of the Formation of Urban Economic
Sphere in the Yangtze
This paper discusses regional disparity and
the formation of regional economic sphere,
based on the aspects of "economic
development" and "elimination of economic
difference" in regional development:
Firstly, the enhancement of the overall level of
regional economy leads to the formation of
"development center". Secondly, the
dwindling of the difference among units
within one region brings the formation of the
innovative system between regions. To
clarify the above mechanism in such countries
as China that has undergone the system of
planned economy, the most important task
is to overcome the separation of regional
market and to form regional market sphere.
This paper tries to illustrate the actual
forms of above subjects with a case of the
formation of urban economic sphere in the Yangtze River Delta.