非対称情報下の貿易政策について

 

前鶴 政和

 

Abstract

 

 本稿では、外国企業の費用情報に関する情報の非対称性が存在する場合に、外国企業の生産量が自国政府の関税率及び自国企業の参入に及ぼす影響について分析する。

 異なる国に立地する企業間、あるいは企業と政府の間には、情報の非対称性が存在するものと考えられる。本稿ではこのような情報の非対称性を積極的に取り入れ、政府の関税政策及び相手企業の戦略に対する企業の戦略的な行動の意義を明らかにする。

 自国と外国の2国が存在し、各国に生産者が1人ずつ存在するものとする。2期間モデルを考え、外国企業は2期間にわたって自国市場に財を輸出するものとする。第1期の期首に、外国企業の費用が実現し、外国企業のタイプ(高費用、低費用)が決定される。第1期には自国企業は参入せず、外国企業は一定の関税率の下で独占的な生産量を選択する。第1期の生産量を観察した後で、自国政府は外国企業のタイプについての信念を形成し、関税率を選択する。同時に、もし自国企業が外国企業は高費用タイプであると推定するならば、第2期に自国市場に参入する。自国企業が参入するとき、選択された関税率を所与として、外国企業は自国企業と自国市場をめぐってクールノー競争を行なう。参入しないとき、選択された関税率のもとで、外国企業は独占を維持する。

 外国企業が第1期の生産量を抑制するとき、自国政府の低関税による利益と自国企業の参入による損失とのトレードオフに直面する。第1期に生産量を抑制するかどうかは低関税による利益と参入による損失の差に依存する。