中国の経済発展と労働移動

鈴木雅勝・福地崇生（朝日大学）

中国経済は過去の重化学工業化・国防目的の内陸部立地政策の後遺症があり内陸部の国営重化学工業が赤字で失業を生み出している。他方で１９８４年以後の経済開放政策で沿海部加工区には直接投資が集中し高度成長を実現している。

両地域間の大きな所得格差は自由市場体制であれば激しい労働力移動を招く筈であるが戸籍制度の存在で社会移動は厳しく抑制されている一方で、増大する地域間格差は大きな社会問題となっている。本稿は前半の理論的分析で、沿海内陸２地域・軽重工業２産業モデルで各期間ごとの国家目標（国益）下での最適解として両地域での産業立地・特性を描写し、過去の国益変化が現在の大きな格差の主因で有る事を指摘する。次の実証研究では先ず１９９５年の３０省データーで生産関数を計測し沿海部・内陸部間の大きな技術格差を確認する。更に典型的な沿海部・内陸部経済であり、最も激しい労働移動が（かなり非合法的に）生じてきた広東省と四川省を取り上げ、前記生産関数を利用しつつ１９８０―９５年間の経済動向を調べ地域間格差の増加を観察した。移動の自由があれば拡大する所得格差の下でどの程度の労働移動が発生した筈かを見る為に、日本で北海道・関東中部関西地域間の労働移動(1977―92年)データーで移動関数を推定し、その係数を参考にして両省間の労働移動を予測したところ、１９９５年には２８万人（１９８０年以後の移動ストックでは２８７万人）で移動は両省ＧＤＰ和も増し格差も縮小する事が判った。現実の労働移動はその約４分の１で、大きな所得格差に拘わらず戸籍制度が大きく抑制していた事は明らかである。両省の２地域モデルを用い、国益を成長（両地域ＧＤＰ和）・地域間格差縮小（両地域間の労働生産性差の二乗の最小化）二目標とし（相対評価をパラメトリックに与えると）労働移動の有無による国益変化を計算できる。このようにして労働移動を抑制する戸籍制度の（負の）帰属価格（約１。７％）を算出した。このような研究は硬直した制度の自由化・バランスのとれた地域開発政策の策定に役立つと思われる。